重症筋無力症の原因と症状・治療・リハビリの全知識

神経から筋肉への指令が伝わらなくなり、力が入らなくなったり、疲れやすくなったりする重症筋無力症という病態。

今回は重症筋無力症の症状や原因、検査、治療などについて解説していきます。

重症筋無力症とは

重症筋無力症とは、筋肉に力が入りにくくなったり、疲れやすくなったりして日常生活に大きな支障をきたす病気です。

我が国の2013年のデータでは、約2万人以上の重症筋無力症患者がいるといわれ、男性よりも女性に多くみられます。

年齢別では、5歳未満、男性では50〜60代、女性では30〜50代で発症のピークがあります。

重症筋無力症は指定難病とされています。

指定難病とは?

指定難病とは病気になる原因がはっきりと分かっておらず、明確な治療法が確立されていないため長期の療養を必要とする病気を指します。

医療費の負担額が助成されます。

重症筋無力症の原因

神経筋接合部
出典:東邦大学医療センター佐倉病院 脳神経内科

人は筋肉を働かせる時に、脳から出た指令が神経を通って、筋肉に伝わる事でそれを可能にしています。

神経と筋肉のつなぎ目を神経筋接合部といいます。

神経伝達の際、神経の末端から「アセチルコリン」という伝達物質が筋肉に向かって放出されます。

筋肉は表面にある「アセチルコリン受容体」によって、神経から放出されたアセチルコリンを受け取ります。

また人の体はウイルスなどが体に入ってくると、そのウイルスを攻撃して排除するための抗体がつくられます。

その抗体の働きによってウイルスから体を守っており、その働きを自己免疫といいます。

重症筋無力症の人は、アセチルコリン受容体を攻撃してしまう自己抗体が生成されてしまう事で、アセチルコリン受容体の数が減少してしまいます。

そのため筋肉の収縮が起こりにくくなってしまい、力が入らなくなったり、疲れやすくなったりするのです。

なぜそのような自己抗体がつくられてしまうのか、その原因については未だに解明されていません。

重症筋無力症の症状

重症筋無力症の症状は「眼筋型」と「全身型」の二つがあります。

眼筋型

まぶたが下がってしまう眼瞼下垂と、ものが二重に見える複視の症状がみられます。目にだけ症状が現れるのが特徴で、重症筋無力症全体の半分くらいを占めます。そのうちの5〜60%の人が発症後2年以内に全身型に移行するといわれています。

全身型

全身型は眼筋症状に加えて、手足や飲み込みの力にも低下がみられ、全身に症状がみられます。
主な症状は以下のものが挙げられます。

球麻痺

口の中にある下や唇、咽頭などの筋肉が低下して飲み込みがしにくくなる「嚥下障害」、会話の言葉が発しにくくなる「構音障害」がみられます。

手足の筋力低下

手足の筋力低下がみられ、長く歩いたり、物を持ち上げたり、繰り返しの動作にて疲労が強くみられます。

手足は末端よりも中心部に筋力低下が生じやすい傾向があります。

呼吸機能の低下・クリーゼ

呼吸に必要な筋肉にも筋力低下がみられ、息苦しくなったり、努力性の呼吸がみられたりします。

重症化すると人工呼吸器を必要とする場合もあります。

感染症やストレス、不適切な薬の投与などで呼吸困難に陥る事をクリーゼといい、生命の危険性があるため細心の注意が必要です。

症状は朝には症状が軽くても、夕方から夜にかけて悪化してくる日内変動がみられる傾向にあります。

また日によっても症状に波がある日差変動もみられます。

全身型は、筋肉の活動を繰り返す事によって疲労が増してくる傾向にあります。

重症筋無力症の診断

重症筋無力症は神経内科で診断を受けられます。主な検査は以下のものとなります。

テンシロンテスト

神経と筋の接合部間の伝達を改善させる薬剤(テンシロン)を投与して、症状が改善された場合は陽性となります。

アイスパックテスト

冷凍したアイスパックを3〜5分まぶたの上に当てます。その後に眼瞼下垂の症状が改善された場合は陽性となります。

眼瞼疲労検査

患者に眼球を上に向ける動きを1分間継続させます。

それによりまぶたが下がってくる症状が現れたり、悪化したりする場合は陽性となります。

他には血液検査、筋電図検査などが行われます。

重症筋無力症と胸腺腫との関連

重症筋無力症の人のうち、約25-30%に胸腺腫の合併がみられる傾向にあります。

胸腺とは、胸骨(胸の真ん中にある骨)の真下、心臓の上にある、脂肪のような臓器です。

胸腺は免疫作用のあるリンパ球の一種をつくりだしており、子供の頃は活発に動いていますが、大人になるにつれ段々としぼんでいきます。

全身型の重症筋無力症で若く発症する人に、胸腺肥大や、腫瘍が見つかることがあります。

重症筋無力症の重症度

重症筋無力症の重症度はMGFA分類によって分類されます。

MGFA分類

ClassⅠ

眼筋筋力低下、閉眼の筋力低下はあってもよい
他のすべての筋力は正常

ClassⅡ

眼筋以外の軽度の筋力低下
眼筋筋力低下があってもよく、その程度は問わない

Ⅱ a

主に四肢筋、体幹筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽い口咽頭筋の障害はあってもよい

Ⅱ b

主に口咽頭筋、呼吸筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽いが同程度の四肢筋、体幹筋の筋力低下はあってもよい

ClassⅢ

眼筋以外の中等度の筋力低下
眼筋筋力低下があってもよく、その程度は問わない

Ⅲ a

主に四肢筋、体幹筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽い口咽頭筋の障害はあってもよい

Ⅲ b

主に咽頭筋、呼吸筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽いが同程度の四肢筋、体幹筋の筋力低下はあってもよい

Class Ⅳ

眼以外の高度の筋力低下。眼症状の程度は問わない
Ⅳ a

主に四肢筋、体幹筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽い口咽頭筋の障害はあってもよい

Ⅳ b

主に口咽頭筋、呼吸筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽いが同程度の四肢筋、体幹筋の筋力低下はあってもよい

Class Ⅴ

気管内挿管された状態。人工呼吸器の有無は問わない
通常の術後管理における挿管は除く
挿管がなく経管栄養のみの場合はⅣ bとする

重症筋無力症の治療方法

重症筋無力症の治療方法は主に以下の方法があります。

胸腺摘出手術

胸腺腫と重症筋無力症の関連性について、先程挙げましたが、その胸腺腫を手術にて摘出する事が重症筋無力症の治療となります。

また重症筋無力症患者のうち、60才以下で全身症状や眼症状のため日常生活に大きな支障があり、抗アセチルコリン受容体抗体が陽性の場合は腫瘍がなくても摘出手術の適応となります。

抗コリンエンテラーゼ薬

神経から筋肉に放出されるアセチルコリンを分解してしまう、コリンエステラーゼの働きを阻害する薬(抗コリンエンテラーゼ薬)を投与します。

重症筋無力症の症状を軽減させる対処療法となります。

免疫抑制剤

ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)を投与して、アセチルコリン受容体に対する抗体の産生を抑制します。

※重症例には「免疫グロブリン療法」「血液浄化療法」が行われます。

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重症筋無力症の予後

重症筋無力症は、以前まではその名の通り、重症な病気というイメージで、死亡率が30%以上の重い病気とされていました。

最近では治療の進歩によって、死亡率は激減しており約70%の患者は、症状の寛解※を得られるようになっています。

しかし30%ほどは日常生活に支障をきたし、社会生活が困難になっていますが、胸腺摘出手術にて以前よりも予後は良好になってきているといわれています。

寛解とは

症状が軽快していて、落ち着いている状態です。

完全に治った完治とは違い、場合によっては再発する事もありえます。

重症筋無力症のリハビリについて

重症筋無力症を発症した場合、リハビリにて動作能力や生活レベルの維持および改善が必要となります。

主に関節可動域訓練や筋力トレーニング、持久力トレーニング、動作訓練などを行っていきます。

重症筋無力症では筋力低下がみられるからといって、むやみに筋力トレーニングをすればよいというわけではありません。

疲労しやすい事を考慮して、適切な負荷で筋力トレーニングを行っていく事が大切です。

過負荷な筋力トレーニングは、逆に疲労を強めて、生活レベルの低下となってしまうため、医師、理学療法士(PT)の指示の元、行っていく事が重要です。

まとめ

・重症筋無力症は自己免疫疾患で、筋力が低下したり、疲れやすくなったりするのが主な症状。指定難病とされている。
・重症筋無力症は完治する事は難しいが、症状を落ち着かせる寛解を目指して治療を進めていく。
・リハビリでは負荷量に注意が必要なため、医師や理学療法士の指示の元に行っていく。

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