膝の前十字靭帯損傷(ACL)の症状・治療・テーピングリハビリ・全知識

前十字靭帯損傷とは聞きなれない名前のケガかもしれません

しかし、たくさんのスポーツ選手がこのケガになってます。

今回は前十字靭帯損傷のリハビリについて解説していきます。

膝の前十字靭帯損傷の治し方・テーピング・リハビリの全て

前十字靭帯損傷とはどんなスポーツでなりやすいのか?ケガをしてしまったら、その治し方はどうしたらいいのか?詳しく教えます。

膝の前十字靭帯とは

膝の関節の中にある靭帯で太ももの大腿骨とすねの脛骨を結ぶとても強い靭帯です。真横から見ると、大腿骨の後方から脛骨の前方に向かって斜めに走っています。

前十字靭帯の役割

●脛骨が大腿骨に対して、前にずれるのと内側にひねる動きを防いでいます。

●膝がX脚にならないように外の方向に方向にずれるのを防いでくれます。

●膝が前後ズレないように安定させる役割を担っています。

スポーツ選手にとって、とても重要な働きをしていることが分かりますね。

前十字靭帯損傷は2種類

前十字靭帯損傷のパターンとして大きく分けて2つに分けられます。

接触型損傷

サッカーやラグビーでタックルを受けたり、柔道で膝の上に乗っかられてケガをするパターンです。その名の通り相手がぶつかって来た力により、膝に引っぱる圧力や、ひねる力がかかる事によりケガします。

非接触型損傷

こんな膝の動きをすると注意です。

ジャンプの着地の際や、ダッシュから止まる際、サイドステップなどの急な方向転換時に膝にケガをします。

前十字靭帯損傷の7~8割が非接触型であると言われています。

この2つの型とも膝を引っぱる圧力(剪断力)やひねる力(回旋力)がかかりケガをするのが特徴です。

前十字靭帯損傷になりやすいスポーツ

急にSTOP&GOや方向転換をするスポーツ

●サッカー
●バスケットボール
●ハンドボール
●スキー
●スノーボード
●野球

ジャンプ着地の多いスポーツ

●フィギュアスケート
●バレーボール

身体がぶつかり合うコンタクト・スポーツ

●ラグビー
●アメリカンフットボール
●柔道
●相撲
●レスリング

前十字靭帯損傷の症状

受傷時には、膝の激痛と「ブチッ」「バチッ」といった断裂音が聞こえます。

その後、膝が腫れ、熱をもち、曲げる事が困難となります。まともに歩く事も困難であるため、スポーツの再開は難しいでしょう。

ケガをして2~3週間経つと腫れが引き、膝が曲がりようになり歩けるようになってきます。しかし、膝に不安定さを感じ、時に歩いていて膝がガクッと崩れるような症状も見られます。

歩けるようになってもスポーツなどの激しい動きの際に膝の不安定さが残り、競技に復帰することは出来なくなります。

前十字靭帯損傷の診断

MRIの画像

正確な診断は病院にてMRI検査にて損傷の程度がわかります。レントゲンでは映らないため、疑われたら、すぐにMRI検査を受ける事が大切です。

前十字靭帯損傷から復帰したスポーツ選手

膝はスポーツ選手にとても大切な場所です。前十字靭帯損傷をしてしまった選手を紹介します。

埼玉西武ライオンズ 中村剛也

西武のホームランアーチスト。2005年のプロ野球・交流戦で12本のホームランを打ち、注目をあびる。
その後、デーブ大久保コーチの指導を仰ぎ、2008年にホームラン46本の大ブレイク。そのまま西武の不動の4番として活躍する。
2012年に前十字靭帯損傷の手術を受けた。

福岡ソフトバンクホークス 小久保裕紀

ソフトバンクの主砲。広い福岡ドームをものともせず通算413本のホームランを放つ。在籍したホークス・巨人の両方でキャプテンとなった。後に侍JAPANの監督をつとめWBCの指揮をとった。
2003年に右膝の前十字靭帯断裂・内側靭帯損傷というケガをしてしまった。

フィギュアスケート 高橋大輔

バンクーバーオリンピックの銅メダリスト。世界一と言われたステップと表現力は観客を魅了し続けた。2008年に前十字靭帯を痛めた。

柔道 野村忠宏

オリンピック3大会連続で金メダルという偉業をなし遂げた。
小柄な身体からくり出す背負い投げは豪快そのもの。あだ名は「平成の三四郎」
2007年に右膝前十字靭帯を断裂する。

サンフレッチェ広島 青山敏弘

日本代表もつとめたミッドフィールダー。2014年にはサンフレッチェ広島でキャプテンとなった。
2005年に左膝前十字靭帯を断裂をしてしまった。

前十字靭帯損傷の治療

前十字靭帯損傷の治療は大きく分けて保存療法と手術療法とに分けられます。

保存療法

組織の摘出や手術を行わない治療法です。

サポーターにて膝を保護したり、膝の周りの筋肉を鍛えて悪化しないようにリハビリを行います。しかし前十字靭帯は血流が少なく自然治癒する事はほとんどありません。

その人の重症度やスポーツレベルによって治療法は変わってきます。

日常生活に支障がなければ良い人、スポーツはしない人では保存療法が選択される事もあります。しかし、膝の不安定性を残したままでいると、変形性膝関節症や半月板損傷半月板損傷などを引き起こしやすいので注意が必要です。

関連→半月板損傷の治療とリハビリ

サポーターの着用などで保護する必要もあります。

手術

スポーツ復帰する場合のほとんどは手術を選択し、多くは靭帯再建術を行います。

損傷した靭帯の代わりに自分の身体の他の部位から、靭帯や腱を移植する方法です。
主に1本で再建される1ルート法と2本で再建される2ルート法に分けられます。

前十字靭帯損傷の手術① 1ルート法の手術

膝のお皿の下にある膝蓋靭帯を移植する方法です。

メリット

●膝蓋靭帯を採取する際に、膝蓋骨と脛骨の骨の部分を一緒に取り除いて移植するため、移植後の骨とのくっつき(癒合)が比較的良い。

●膝関節の安定性がとても良い。

しかしデメリットもあります。

デメリット

●傷跡が大きい事

●腱を切り取った部位に痛みが残りやすい。

●正座や立て膝をつく時に支障が出るときがある。

前十字靭帯損傷の手術② 2ルートの手術

こちらの方法は太ももの裏にある半腱様筋、太ももの内側にある薄筋の腱を移植する方法です。こちらは二十束再建術と呼ばれ、2本の腱を使用します。

移植につかう半腱様筋

薄筋

移植につかう薄筋

前十字靭帯は前内側線維と後外側線維と呼ばれる2本の線維で出来ています。

膝を曲げた時に安定させるのと、伸ばした時とに安定させる2つの働きがあるため、この2本の腱を移植する事によってより本来の前十字靭帯の働きと近いものを再現出来るのが特徴です。

メリット

●手術の傷が小さい。

●痛みが少ない。

●より正常な靭帯の働きに近い

メリットが多いので、最近では1ルート法よりも2ルート法が多く行われています。

デメリット

●膝を深く曲げる時の力が弱まる

●腱が骨に馴染むまで時間がかかる

前十字靭帯手術にかかる時間

手術の所用時間は1時間~1時間半で、ほとんどは下半身麻酔で行います。ですから意識のある中での手術となります。

入院は1~2週間程度ですが、こまめにリハビリに通うのが困難であったり、退院後の生活に支障が大きかったりなど個人の事情などにより長引く事もあります。

前十字靭帯手術の費用

手術費用は保険がきいて20~30万円程度で、高額医療費制度の申請が出来るので大体10万円程度となる事が多いようです。これも入院期間や受けた処置の内容によって個人差があるかと思います。

高額医療費制度の申請の方法

①申請窓口

サラリーマンの方:加入している健保

自営業の方 : 住んでいる市役所の国民健康保険担当窓口に問い合わせ

②必要書類

●領収書
●保険証
●印鑑
●振込口座のわかるもの
●高額療養費・支給申請書→申請書はこちらを印刷して下さい。

③自己負担金額の計算

収入によって手術の自己負担限度額が違います。

※注意点 入院する時に個室などを使った場合の差額ベッド代や保険外の負担分には適用されません。

④申請の方法

1.病院で3割負担額の医療費をいったん支払って下さい
2.健康保険組合に高額療養費の支給申請をして下さい。
3.自己負担限度額を超えた分の医療費が払い戻されます。

前十字靭帯手術の後のリハビリ

まず手術からのスポーツ復帰については、個人差もありますが、おおよそ8~10ヶ月程度かかるのと言われています。

大まかに手術後のリハビリの流れについて説明します

前十字靭帯損傷のリハビリ

●手術直後

手術直後は膝が炎症により、熱を持ち腫れている状態が続きます。アイシングをしたり、足首の運動などにより血流の改善に努めます。

膝蓋骨(膝のお皿)の可動性の維持や、周りの筋肉を落とさないように患部以外のトレーニングも行います。

●手術直後~3ヶ月

手術後は移植した腱が一度壊死(組織や細胞が死ぬ事)します。その後3ヶ月程度経過すると周辺の組織から血行の再建が行われて次第に馴染んできます。

なのでこの時期に移植した腱に無理な負荷をかけないように注意する事が必要です。無理のない範囲で膝の可動域訓練や筋力トレーニングを行なっていきます。

●3ヶ月~6ヶ月

移植した腱が馴染むようになるので、少しずつ運動強度を上げていきます。

関節の可動域訓練や筋力トレーニングの負荷も徐々に上げていきます。ジョギングやスクワットなど、体重をかけた負荷の高い運動も徐々に行なっていきます。

●7ヶ月以降

よりスポーツ動作に近い実践的なリハビリを行なっていきます。サイドステップやジャンプ動作、カッティング動作など、よりスポーツ動作に近いトレーニングを行なっていきます。

リハビリの進め方は医者の診断の元、理学療法士やトレーナーの専門家と一緒に行なっていきます。回復時期によって、してはいけない動作もあるため自分で判断せず正しい指導の元、リハビリを行いましょう。

前十字靭帯損傷の再発予防

前十字靭帯損傷は再発があるケガです。再発を予防するにはどうすればいいでしょうか?

再発予防① 足の機能をUPさせる

前十字靭帯損傷が非接触型損傷の場合、身体的な特徴が原因となる事が多いです。スクワット動作やジャンプの着地で膝が内側に入りやすい場合などは要注意です。

再発しやすい人の特徴

●膝が過剰に伸びる人

●X脚のように膝が外側の方向(外反方向)にストレスがかかる人

●脛骨が過剰に内側にひねる事が出来る人

また、注意が必要な人の特徴を紹介します。

●かかとの骨が内側に向く「回内足」の人

●扁平足の人

●X脚の人

このような身体の人は膝へのストレスがかかりやすくなります。

再発予防② テーピングをする

前十字靭帯にストレスのかかりやすい膝の「ねじり防止」のテーピングを紹介します。

用意するもの:伸縮性のあるテープ


膝を90°曲げた状態で、お皿の下の脛骨(すねの骨)の骨が出っ張っている部分から斜め外側に向かって、膝の後方を通りお皿の上まで巻いていきます。

①と反対側の走行にテープを張ります。

再発予防③ サポーターを着用する

スポーツ復帰後はトラウマから怖さもありパフォーマンスにも影響を及ぼします。

サポーターの使用により、膝を守るとともにメンタル的にも安心感を得る事でパフォーマンスの向上につながります。

サポーターは膝の前後方向の剪断力と回旋力を軽減させるもので前十字靭帯保護用のサポーターも市販で売られています。

固定力としてはテーピングよりも優れているので、不安が強い場合はサポーターの方が望ましいでしょう。

まとめ

●膝の前十字靭帯損傷は膝が過剰に伸ばされるストレス、内側に捻るストレスによってケガしやすい。

●接触型と非接触型に分けられる

●前十字靭帯は自己修復能力が乏しいため、手術をするケースが多い。

●スポーツ復帰には8ヶ月程度かかり、医師、理学療法士の指導の元、管理されたリハビリが重要である。

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