脊髄損傷の原因と症状・リハビリテーションの方法

脊髄損傷とは交通事故や転倒、衝突などの強い外力によって脊髄という部位が損傷を受け障害を起こす状態を指します。

脊髄とは身体を動かす事に重要な役割を果たしている神経が集まっている部位です。

脊髄損傷を起こすと手足の麻痺が生じ、日常生活にも大きな支障をきたします。

今回は脊髄損傷について解説していきます。

脊髄とは


一般に背骨と呼ばれる部分は解剖学的に脊柱と呼ばれます。

脊柱の1つ1つを脊椎といい、首にある脊椎を頚椎、胸にある脊椎を胸椎、腰にある脊椎を腰椎といいます。

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  • 頚椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個、その下に仙骨、尾骨となっています。
  • 脊柱の後ろには脊柱管と呼ばれるトンネルがあり、そこに走っているのが脊髄です。
  • 脊髄は神経で脳からの指令を身体の末梢の各部位に伝える、末梢からの情報を脳に伝える役割を果たしています。
  • 言葉が似ていてわかりにくいですが脊椎は骨、脊髄は神経を指します。
  • 脊髄の長さは約40~45cmあり、断面は直径が約1cmの楕円形をしています。
  • 上から頸髄、胸髄、腰髄、仙髄にわけられます。
  • それぞれ、頸髄からは8対、胸髄からは12対、腰髄からは5対、仙髄からは5対の脊髄神経が出ています。

脊髄にある神経は手足の動きを司っていたり、冷たさや熱さなどの温度を感じたり、痛みを感じたりする機能を持っています。

また尿や便をコントロールしたり、呼吸を司っている部分もあります。

そのため損傷した部位によって現れる症状が異なってきます。

脊髄損傷の原因

脊髄損傷の原因で多いのは交通事故、高所からの転落、スポーツ外傷などの強い外力によって生じる事が多いです。

多く発症しやすいのは20代前半と50代後半といわれています。

高齢者では背骨の圧迫骨折や破裂骨折に伴って起こることが多いです。

また頸椎症や後縦靱帯骨化症、骨粗しょう症などによって脊髄損傷を起こすこともあります。

脊髄損傷の症状

症状後の回復の経過

重度の脊髄損傷では、受傷直後に一時的な脊髄ショックという状態に陥ります。

脊髄ショックとは、一時的に損傷した部位より下にある機能が全て消失します。
具体的には

  • 弛緩性麻痺(力が抜けて動かない状態)
  • 反射の消失(打鍵器などで腱を叩いても反応がない)
  • 血圧の低下
  • 麻痺性イレウス(腸の運動麻痺によって、腹部の膨満感、嘔吐、腹痛などを呈する)
  • 膀胱の弛緩、拡張

脊髄ショック離脱後の回復の経過

脊髄ショックの状態から経過すると運動麻痺、感覚障害、腱反射異常といった症状がみられてきます。
その症状は永続的なものか、一過性のものかは損傷の程度によって異なります。

また運動麻痺も程度によって大きく2つに分けられます。

運動麻痺

●完全麻痺
神経伝達機能が完全に反応をしない状態で、動かす事、感覚を感じる事に関して全く反応がない状態です。

●不全麻痺
脊髄の一部が損傷している状態で、一部の機能は反応を示します。

脊髄の損傷レベル別の違い

脊髄が損傷を受ける場所によって、残される機能とおおよその予後は以下の通りとなります。

場所による違い

●頸髄の1番目~3番目(C1~C3)
残存する運動機能
・顔の表情筋
・舌の動き
・頭部を前に倒したり、回旋は可能

機能的予後
・基本的にベッド上での生活
・電動車椅子
・人工呼吸器
・寝返りや起き上がりなどは全介助

●頸髄の4番目(C4)
残存する運動機能
・呼吸
・肩甲骨挙上する動き

機能的予後
・電動車椅子(顎で操作)
・会話が可能
・全介助

●頸髄の5番目(C5)
残存する運動機能
・肩を前、横、後ろに挙げる動き
・肘を曲げる動き
・前腕を外に捻る動き

機能的予後
・車椅子駆動可能
・自助具による食事可能
・大部分介助

●頸髄の6番目(C6)
残存する運動機能
・肩を内側に挙げる動き
・肘を曲げる動き
・前腕を内側に捻る動き

機能的予後
・車椅子駆動可能
・条件の良い例では自動車運転も可能
・自助具による書字可能
・中等度~一部介助

●頸髄の7番目(C7)
残存する運動機能
・肘を伸ばす動き
・手首を手のひら側に曲げる動き
・手指の伸展

機能的予後
・車椅子駆動可能
・一部介助
・日常生活は自助具を使って自立レベル

●頸髄の8番目~胸髄の1番目(C8~T1)
残存する運動機能
・手指の屈曲
・手の細かい運動

機能的予後
・車椅子駆動可能
・日常生活自立

●胸髄の2番目~8番目(T2~T6)
残存する運動機能
・呼吸予備能力増大
・体幹上部の安定性

機能的予後
・車椅子駆動可能
・日常生活自立

●胸髄の7番目~12番目(T7~T12)
残存する運動機能
・骨盤帯の挙上
・体幹の屈曲

機能的予後
・長下肢装具と松葉杖で歩行可能
(実用的には車椅子が望ましい)
・日常生活自立

●腰髄の1番目~3番目(L1~L3)
残存する運動機能
・股関節屈曲(太ももを挙げる動き)
・膝関節伸展(膝を伸ばす動き)

機能的予後
・長下肢装具と松葉杖で歩行可能
(実用的には車椅子が望ましい)
・日常生活自立

●腰髄の4番目(L4)
残存する運動機能
・足関節背屈(つま先を上に挙げる動き)

機能的予後
・短下肢装具と松葉杖で歩行可能
・日常生活自立

●腰髄の5番目(L5)
残存する運動機能
・股関節伸展(太ももを後ろに伸ばす動き)
・膝関節屈曲(膝を曲げる動き)

機能的予後
・短下肢装具と松葉杖で歩行可能
・日常生活自立

●仙髄の1番目(S1)
残存する運動機能
・足関節底屈

機能的予後
・短下肢装具と松葉杖で歩行可能
・日常生活自立

脊髄損傷の治療

脊髄損傷後の治療は損傷した脊椎を動かさないようにして損傷の広がりを抑える事が最も重要となります。

そのため損傷後出来るだけ早く必要に応じた脊椎の固定や圧迫の除去手術などを行います。

残念ながら損傷した脊髄を再生する有効な方法は今のところ存在しません。

そのため残された機能を最大限に生かすリハビリが重要となります。

脊髄損傷のリハビリ

脊髄は損傷を受けると修復、再生することは限りなく少ないため、治療やリハビリでは残された機能の維持と強化を目的とします。

残存機能を最大限に活かして、可能な限り動作を獲得し、より生活しやすい状態を目指します。

リハビリは損傷を受けた部位、程度によって内容は異なってきます。

脊髄損傷急性期のリハビリ

全身状態に支障をきたさない限りできるだけ早期から始めます。

●関節可動域訓練

動かない関節の動きの維持、改善を目的に動かします。

褥瘡の予防

褥瘡とは寝たきりなどで動かなくなる事で、体重で圧迫を受けている部位の血流が滞り、皮膚やその下の組織が壊死してしまう病態です。

一般には床ずれという言葉で認識されています。

脊髄損傷後の急性期は身体を自由に動かすことが困難です。

そのため姿勢を細めに変える体位交換をする事が大切です。

またエアマットやエアクッションの使用も褥瘡予防には有効です。

呼吸機能

脊髄損傷後の二次障害として多いのは肺炎です。

特に頸髄4番の損傷の場合は、横隔膜の機能は残存するものの、腹筋や肋間筋(肋骨の間にある筋肉)が不十分で呼吸機能が低下しやすい状態です。

呼吸に必要な肋骨や腹筋が硬くならないようにリハビリを行なっていきます。

脊髄損傷の回復期リハビリ

基本動作訓練

日常生活で欠かすことのできない寝返りや起き上がり、立ち上がり訓練を行います。

損傷した部位によって使用できる筋肉や動作が変わってくるので、残存機能を生かした動作の練習を行なっていきます。
また車椅子駆動の練習なども行なっていきます。

日常生活訓練

食事やトイレでの排泄動作、更衣動作などの日常生活訓練を行います。

残存された機能を生かし、必要であれば自助具や補装具などを用いる場合もあります。

まとめ

●脊髄損傷とは身体の運動機能や感覚を司る神経の損傷であり、損傷した部位によってその症状は異なる。
●主な症状としては運動麻痺や感覚麻痺などがあり、生活に大きな支障をきたすとともに、脊髄の再生は困難である。
リハビリにて残された機能を最大限に生かした動作、日常生活動作を獲得する事が重要。

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